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メンバー羽太のドキュメンタリー


by habutobuto

「天突き体操」

相撲のしこを踏む体勢になり、両方の腕を天に突き上げ、指先は外側に向け、「よいしょ」と中心のひとりが天に腕を突き上げたら、まわりの全員で「ヨイショ」と天に突き返す。
「ヨイショ」「ヨイショ」「ヨイショ」「ヨイショ」「ヨイショ」と腕の上げ下げを中心の人とまわりの人で繰り返すのだ。おのずと下半身に力が入り、毎日やってるうちにだんだんいい天突きができるようになってくる。
宗教ではない。渋谷にあった訪問販売会社の営業マンの朝一の天突き体操である。朝7時出社の為、早朝の天突き体操は、今でも僕の心に熱くこびりついている体操なのである。
会社は渋谷の道玄坂の上がり切った左側のビルの7階にあって、1台37万円する、浄水器を取り扱っていて、水道からその浄水器に水を通すと浄水器の中が山の地層と同じになっていて、水道水が山から出る天然水になってでてくるというツワモノの商品であった。
会社のパートの女性陣がテレフォンアポイントをとった、基本奥様相手の訪販だったが、お客様の中には奥様以外にも、通称男独(男性独身)の人もいて、男独専門の営業マンがいたり、すごいアトピーで腕や頬から体液が出ている程なのに、それを上手く売りに転換して売れている営業マンがいたり、全体的に個性が強い人が集まっている会社だった。
月に浄水器を20台以上売る先輩が沢山いて、売れている先輩は自家用車できてて、セルシオやアメ車、GTRのフルチューンアップなど、様々であったが僕は会社から貸し出してくれる、豆のような、白い軽自動車で奥様の家まで向かうのだ。
100パーセント植物性の家庭用洗剤のモニターという事を名目で、さわりで水も扱っているというアポイントの元に訪販するので、洗剤の知識と浄水器の知識が完全に頭に入るまでは社内でひたすら暗記とトークの練習に明け暮れるのだ。
1ヶ月くらいやり続けると頭に刷り込まれてくるんで、ようやく訪販できるようになるのである。
朝の天突き体操も凄いのだが、出発の時もみんなで課長を前に再度全員で天突きして、勢いや売上が芳しくない営業マンがみんなの前に立たされ、課長選択のそいつのイメージ音楽を爆音で流す。チャゲ&飛鳥の「YAHYAHYAH」とか米米クラブの「ロマン飛行」 サザンの「マンピーのGスポット」甲斐バンドの「風の中の火のように」などもっと沢山あったが思い出せない。
「YAHYAHYAH」 とかは詩も熱くメロディアスなんで、結構みんな熱くなり、盛り上がる。出発の時は軽く暴れるのが流儀になっていて、椅子とか電話とかを、今日の目標本数を宣言しながら、まわりに投げたりしてよく、気合いが空回りしているとかなりダサくなるんで、思いっきりやったほうがいいのである。「必ず1本決めてきます!!行って来ます!!!」もガッツポーズが流儀なので、決めなくてはならないのだ。上に突き上げるガッツではなく、小ガッツポーズで気合いをみせなくてはならないのだ。
もちろん、奥様宅に入る前も課長に電話してから入るので気合いの入った巻き舌みたいんで「今から入ります行ってきま~すぅ!!!」をプチな白い車の中ひとり叫んでいるのだ。自分の課長であった岸本課長、元佐川急便で鍛えた精神力と身体は決して大きい人ではないが、ガッチリした身体で男前で、人あたりが抜群で世話好きな課長の天突きは気合いが乗りすぎて 「ヨイショ」が「ソイショッソイショッソイショッソイショッソイショッソイショッ」に聞こえるくらいすごい天突きをかもしだしていた。
by habutobuto | 2011-11-11 23:30